ここは、不思議な喫茶店"fatum"。
一度でもこの店の虜となってしまったお客は、常連客となる・・・
そんな不思議なこのお店に、お客さんが来るのは大抵一日に五〜十人程度。
まぁつまり、そこまで繁盛はしていない。
基本的に、店長さんが入れたコーヒーが飲みたいという人か、ロザさんに会いたいという人、もしくは、私の作った焼き菓子を楽しみに来てくれる人が大半。
まぁ、ほとんどが店長のコーヒーとロザさん目当てでして。
だから私は、いつものんびりと焼き菓子を作るか、サボテンと会話している。
それが、日常で。
それ以外は、非日常である。
ある日の夕方、いつものように店を閉めようと準備し始めていた。
テーブルを拭き、椅子を逆さにしてテーブルの上に置く。そんな作業をしている最中。
店長さんが、コーヒーカップを拭く手を止めた。
何やら難しい表情をしたかと思うと、またいつもどうり手を進めた。
・・・どうしたのだろうか?
「あの、店長さん。 どうかしたんですか?」
そう聞くと、店長さんは笑顔でこちらをチラリと見た。
「・・・さん。コンタクトはしていますね?」
「突然何を「して、いますよね?」
「はいっ、しています!もうばっちりです!!」
急に真剣な表情をした店長さんに内心かなり驚いた、が、それだけ何かあるのだろう。
「今からこの店に一人の男が来ますが、絶対に、絶対に"チカラ"を使ってはいけませんよ。」
「・・・・・・・は、はぁ」
一人の、男
これは、非常に珍しいことだ。
店長さんが、わざわざお客さんが来るのを前もって言うということは。
しかも、こんなに念を押して"チカラ"の使用を禁じるとは・・・。
一体どんな人物なのだろうか。
・・・かなり要注意人物とか、だったりして――――――
カランカラン・・・
そんな軽い音がして、店のドアが開いた。
どんな人物なのだろう、と少々ワクワクして振り向いてみた。
さて、店長さんが注意するほどの人物と、は・・・
「・・・・わぉ」
まさか、嘘ではないだろうか。
黒いコートに、黒髪でオールバック、そして、十字のマークが額にある、男。
顔は、えらく美形でびっくりする。が、瞳は酷く冷たい。
嗚呼、私この人知ってるよ。店長さん。
「いらっしゃいませ。あなたが仕事帰りに来るなんて、久し振りですね。」
「あぁ・・・、少しばかり面倒な仕事をしてきてな。」
「コーヒーですか?」
「頼む。」
つい最近、ここがハンター×ハンターの世界だって知ったところだが、まさか、まさか・・・
こんな、超危険人物と遭遇するとは思いもよらなかった・・・!
とりあえず、せっかく二人が仲良さげ(?)に話をしているのだし、店長さんは彼が私に注目しないようにしてくれているようだし(勝手な解釈)、私は箒を持ったまま、そろーっと一階から逃げようとした。
「それで・・・。いつ、新しい従業員を雇ったんだ?」
ぎくっ
「(ああああ私のことじゃない私のことじゃない私のことじゃない・・・)」
「おい、そこの女。客に対して挨拶もなしなのか?」
「い、いらっしゃいませ・・・」
いくら、ここ"fatum"内で喧嘩・殺生禁止だとしても、これは怖すぎる。
全身鳥肌ものである。
チラリと彼の顔を見ると、やはり美形だなぁと思う反面、ものすごく怖い。
そして、彼――クロロ=ルシルフルが、私を指差して言った。
「どうして、こんな女を?」
「・・・こんな、で悪かったですね。」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
く、口がぁー! 滑ったぁー!!
「あははっ。ちょうど、人手が欲しかったので。いい方ですよ。」
嗚呼ナイスフォロー!大感動です!!
口に出さないように、私は熱い目線を店長さんに送った。
店長さん、苦笑い。
「ふぅん。ま、それはどうでもいい。 腹が減った。 なぁ、箒女。」
ちょっと、誰が箒女ですか誰が!
「店員なんだろ?何か、うまいものを食わせてくれ。」
「あのですね、曖昧すぎて、どんなものを作ればいいかわかりませんよ・・・っ!」
ああああしまったー! また口が滑ってしまった!!
もう嫌だ、一刻も早くこの場から逃げたい逃げたい!
「プリン、なんてどうでしょう。」
あ、それか。
それがあったのか・・・!
好物を出すのが一番、ですね!!
その後、もうとにかく美味しいものを作れるように努力して、今までで一番手をかけたプリンを出したところ、それなりに美味しかったらしく、文句は言われなかった。
ああもう嫌だ。こんな、寿命が縮むような思いは・・・・っ!
それは、ある日のことでした。